「大切な学び」(園便りNO.6)

北海道には、「蝦夷(えぞ)梅雨(つゆ)」という言葉がありますが、今年の気候は全く予想外のことでした。本州から引越して来たお母さんは、「全然平気よ~」とおっしゃいますが、日中のムシムシした天候に、参ってしまいそうです。ところが、子どもたちは平気で、空の様子や気温を敏感に感じながらも、そんな気候も楽しんでいます。いよいよ一学期が終わります。教師たちで言い合っています、「あっという間だった!」と。

私たちは、いつも楽しいことには、みんなで集まります。「新しい体操をしよう!」と言えば、どの学年もホールに集まります。「なにぬねのが始まる!」と言えば、みんな遅れないように、ゆり組に集まってきます。頂いた新鮮なキャベツも、キュウリも大根も、みんなで分け合って美味しくいただきました。幼稚園で収穫した138個のイチゴも、みんなで数えて、どのようにして食べようかと、みんなで相談しました。ふと気が付くと、つぼみ組さんも、落ち着いてみんなの輪の中にいるどころか、意見を出したり、拍手をしたり、大きな声で歌ったり、存在をアピールできるようになってきました。甘えん坊は、年長さんの足の間に座って、後ろから抱っこされているのです。年長児も、それが心地いいのです。たんぽぽ組さんは、年長組のお兄さんお姉さんに憧れ、精一杯ステキをアピールしています。一人一人が、自分自身の存在を自覚し、しっかりと両足で立とうとしているように見えます。

たんぽぽ組では、毎日、テントウ虫が幼虫から成虫になる様子を観察し、たくさんの気付きを経験知として蓄えました。そうして、成虫になると、これからも生きていけるように、外へ逃がしてやったということでした。自分と同じように命があるということ、命があるものは成長していくということ、そしてどこまでも強く生きようとするということを、実感として味わえた活動でした。隣りの学級で仕事をしていると、何やら興奮した声が聞こえてきました。ドアから顔半分で覗いてみると、芽未先生と冬野先生が、テントウ虫の脱皮を見て興奮しているのです。「生まれたてだー」と叫んでいました。子どもたちにも、先生たちにも大事に見守られて、テントウ虫になれたのですから、なんて幸せなことでしょう。

ゆり組では、図鑑の表紙に載っているのと同じ、茶色い線の入った大きなカタツムリと、小指の先ほどのナメクジと、更に小指の先の先ほどのカタツムリを8匹ほど、飼育ケースで飼っています。子どもたちは、登園すると必ず様子を確認します。誰ともなく、霧吹きをかけています。「カタツちゃん」という名前があります。みんな可愛くて、手に乗せたり、枝を渡らせたりしていました。放課後、優先生が、カタツちゃんの草を取り換えようと、ケースを外に出しました。「たまには、太陽にあたるのもいいかもね」との思いで、置いておくことにしたのです。翌朝私が出勤すると、車から降りる前の私に、いきなり「ごめんなさい」と言うのです。今にも泣き出しそうです。カタツちゃんを外に出したまま退勤してしまったのです。そうしてカタツちゃんは、いなくなってしまいました。登園してきた子どもたちは、口々に「いない」「いない」の連発です。その度に、優先生の顔はこわばっていました。正直に話すことにしました。優先生は、泣きながら話し始めました。事情は分かったものの、泣いて謝る優先生に驚く子どもたちがいました。しばらく間をおいて、「い、いいよ」「きっと帰って来るよ」「泣かなくてもいいよ。栄先生が山で捕って来てくれるよ」など、優先生の涙を何とか止めようと必死な子どもたちがいました。私はその横で様子をじっと見守りながら、車に駆け寄ってきた優先生に「あれ~」と言いながらニタニタした (事件を楽しんでしまった) こと、心の中で「カラスに食べられたな」などと思ってしまったことを、いたく反省させられていました。子どもたちは、どこまでも希望のもてる言葉をかけていたので・・・。

一週間ほど経ってから、カタツムリの土を換えてあげることにしました。子どもたちは、飼育ケースを外に運び、丁寧に土の入れ換えをしていました。指の先の先ほどのカタツムリがいなくなったりしないよう、慎重にやっていました。その時です。「いたー!」と叫んだ子がいました。「カタツちゃんだー」と言うのです。本当にいたのです。カラスに食べられることもなく、生きていたのです。子どもたちが、言い出しました。「優先生に教えよう」「また泣くぞ」「びっくりして、ワーンて泣くナ」と。もちろん優先生は、真ん丸オメメでビックリ!泣きそうになっています(鼻が真っ赤)。子どもたちは、その様子をニヤニヤしながら見つめていました。

放課後、優先生はカタツちゃんをじっと観察していました。「私、カタツムリ飼ったの初めてなんです。ここが口かー。可愛いですね。わー、食べている。口が動いている。飼っていると可愛いって思うようになるんですねー」と呟きながら、カタツムリから目を離しませんでした。

私は、若い教師たちが命と向き合う子どもとの活動を大事に受けとめ、子どもと一緒に、時には子ども以上に、そこに入り込み、慈しみ尊ぶことを味わい、その思いを子どもと分かち合おうとする姿勢に、心打たれるのです。そのような教師の許で過ごす子どもたちが、育たないわけがありません。虫も自分と同じ命をもっており、虫がどんなことを思っているのかをみんなで察しながら世話をし、分かったことを夢中で伝え合い、ハプニングに涙し、相談し、みんなで乗り越える知恵が、小さい子を思いやり、小さい子の気持ちを察して行動したり、弱い子に手を差しのべたりすることへの、人間としての共通の学びになって行くのです。そのような育ちを体験してきた子どもたちだから、みんなで集まれば、楽しい豊かな時間を過ごせるのです。2学期は、更に豊かな時間を過ごし合えるよう、教師一同で努力してまいります。一学期同様、ご協力いただけたら幸いです。心に残る夏休みをお過ごしください。