「自分の人生を支えてくれるもの」(園便りNO.14)

私たち教師はこの冬休みに、一方では預かり保育をしながら、他方ではそれぞれが資質を高めるために様々な研修に参加してきました。休みが終わって、その学びを報告し合いました。こひつじ幼稚園という舞台で、どのような資質が必要なのか、どのように子どもの見取りをしたらいいのかを報告する若い教師たちの目が輝いていたのが印象的でした。始業式の日の朝、彩花先生は、眠れなかったと言っていました。教師も、前日には、短い3学期をどのように子どもたちと向き合おうか、みんな元気だろうかなど諸々考えて、ある意味で、興奮状態になるのです。

私は、始業式などの式の後で、いつも少しだけお話しさせて頂きます。今回は、石井桃子さんの「あなたの人生を支えるのは、あなたの幼い時の日々です」という言葉を紹介させていただきました。私が今、この歳になって幼い時の出来事を思う時、「あの事が私にとって大事な出来事だった」とか、「あの思いが自分を育ててくれた」などと、振り返ることができます。その多くは、自分にとって「心地いい体験」ではなく、気まずかったり、傷ついたり、苦しかったりした体験がほとんどであることに驚かされます。もちろん、それ以上に幸せな思いもしてのことです。

子どもの頃に読んだ、石井桃子さんの『ノンちゃん雲に乗る』という小説が、私のこまごました思い出に並行して思い出されます。粗筋を簡単に紹介しましょう。

ノンちゃんは、家族に大切にされていました。いい両親でした。日曜日の朝目覚めてみると、お母さんとお兄ちゃんが東京に買い物に行ってしまった後でした。お父さんは、病弱なノンちゃんを都会に行かせたくなかったので、ノンちゃんには黙って行かせたのです。ノンちゃんにとっては、理由などどうでもよく、「自分だけおいていかれた、だまされたこと」に怒りをぶちまけました。生まれて初めて、最愛の人に裏切られたという体験です。「お母さん、いつもだますんだ」とか、「今度連れて行ってもらえばいい」とか、「泣いたらすっきりした」ぐらいで納まることではなく、重大な裏切りだと感じ、抗議し、お父さんに慰められても拒否しました。自分のこんな痛切な気持ちを誰も分かってくれないなら、「一人でどこかへ行っちゃおう」と思い、家出をします。泣きわめきながら、ひょうたん池の所まで来て、池に空がきれいに映っているのを見ているうちに、池に落ちちゃいました。息ができなくもがいていると、身体がフワッと空中に浮かび、空を泳いでいるうちに、雲に乗ってやってきたおじいさんに助けられます。驚いたことに、ノンちゃんをいじめた同級生の長吉もそこに乗っていたのです。ノンちゃんは雲の上で、おじいさんに聞かれるままに、「身の上ばなし」をします。自分の両親のこと、楽しいお兄ちゃんのこと、そして自分はどんなに「良い子」かということも。すると、おじいさんは、「そういう子は、よくよく気をつけんと、しくじるぞ! 人には『ひれふす心(謙虚な心)』がなければ、えらくはなれんのじゃよ」と言うのです。不安になって家に帰りたくなったノンちゃんに、「帰るには試験が必要だ。一つ、うまいウソをついてもらおう!」とノンちゃんの心を揺さぶります。ノンちゃんは、どうしても嘘がつけません。おじいさんは、「嘘をついてはだめだと、誰が言ったのか?先生か?お父さんか?」と詰め寄ります。ノンちゃんは必至で自分の心と向き合います。考えているうちに、「自分が嘘をつくのが嫌なんだ。自分が嘘をつきたくないんだ」と分かりました。おじいさんとの厳しい問答の末、「試験」にパスし、家に帰ってきます。

目を覚ますと、家で寝ていて、家族が心配そうに覗いていました。ノンちゃんは池の浅い所に落ち、気を失っているところを助けられたのでした。ノンちゃんは、直ぐに元気になり、登校し、意地悪長吉に、以前とは違った態度で接することができ、良い関係になりました。そして、リーダーとは程遠いノンちゃんが、この日から級長にもなり、自信をもって生きていくのです。

安心でき、頼りになる存在がいるということが、子どもの成長にとって、とても大切であることは間違いありません。しかし、その事だけにこだわると、わがままで視野の狭い経験に納まってしまいます。知らない世界、経験したことのない世界、いろいろな人と出会うことで、子どもは飛躍的に成長していくチャンスが得られるのです。おじいさんは「ひれふす心」という言葉を使っていましたが、『わがままな心ではいけない』ということや、「自分の心と向き合うことの必要」を教えてくれたように思います。ノンちゃんの経験した「雲の上」が、「こひつじ幼稚園」であったらいいなぁと思います。大人になった時、「自分の人生を支えてくれたのは、あの幼い時の日々があったから」と一度でも思えたら、どんなに幸せなことかと思わずにはいられません。

3学期は、それぞれの学年を「生ききる・遊びきる」という生活の中で、自分の心と向き合う体験を通し、「わがままな心」に気がつくとともに、改めて「みんなの中での自分らしさ」を見つめられたらいいと思うのです。教師も、冬休みに学んだことを生かし、雲の上のおじいさんのように、子どもが成長できるような「きっかけ」を与えられる存在でありたいと願います。

 

2月行事予定

1日 豆まき

4日 CDジャケット撮影日

5日 なにぬねのの日

7日 一日入園・説明会

12日 誕生会

13日 なにぬねのの日

14日 CDレコーディング

18日 音楽隊CDレコーディング

21日 なにぬねのの日

25日 身体測定

27日 お別れライブ

28日 卒園旅行