見えていますか「心の育ち」(NO.7)

 大人である皆さんは、「愛」という言葉を聞くと、「男女の愛」を想像するのではないでしょうか。このところ、こひつじ幼稚園の子どもたちは、「愛する」「互いに愛し合う」「本当の愛とは」ということを深く考え合い、様々な自発的活動をとおして、「これが愛なんだ」ということを実感しているところです。
この秋は、園便りでお伝えしている通り、「私たちは互いに愛し合おうではないか」(ヨハネの第一の手紙4:7)「自分を愛するように、あなたの隣人(となりびと)を愛しなさい」(ルカによる福音書10:27) と、「あふれるばかり感謝しなさい」(コロサイ人への手紙2の7)という聖書の言葉を中心に、礼拝ごとに話しをしてきました。今年は、コロナ対策で、全園児での礼拝をやめ、学年ごとの礼拝をしてきました。各学級の様々な出来事や心の動きを捉え、それぞれの学年の年齢に合った説教ができたことは、幸せなことでした。
それにまつわる様々な出来事の中から、少しだけご紹介します。 

〇 年中組の女の子2人が、研究所にやってきて、会話を楽しみながらネックレスを作っていました。私は聞きました、「あなたたちは、友だちなの?」と。すると、「そうなの、私たち友だちなの」「愛し合っているの」と、笑顔でさらりと答えたのです。その屈託のない、壁のない、偏見のない、天使のような物言いや表情に、まっすぐな心の美しさを見ることができました。
また、ある日の研究所で、真剣に製作をしている子がいました。堅い部分をハサミで切ることになり、「切れる?」と尋ねると、「うん、切れるよ」と答えたものの、四苦八苦していました。「そんな時は、頑張って!後は、神さまに助 けてもらって」を自分に言い聞かせて頑張っていると、チョキン!「ほら、切れた!愛って、そういうことよ!」と言い放ったのに、ビックリ。
困難にあった時、何とか乗り越えようともがくものの、「神さまに助けてもらうのよ」なんて、私は自分に言えるのだろうか。子ども思いの深さと素直な表現に、そっと涙をぬぐってしまいました。

〇 年長組でも、いろいろな事件がありました。ある日、約束を破ってしまい、自分の保身から担任に嘘を言ってしまった子がいました。そのことが、あっという間に学級みんなの知るところとなりました。学級で話し合っているうちに、「約束を破るなんて」という思いから、「嘘はいけない」という思いにポイントが変化していきました。しかし、当人は謝ろうという気配もなく、みんな怒っていました。仲間ではないと言い出しました。この問題は、休みを挟んで6日間も引きずりました。初め当人は、へのへのカッパみたいにしていましたが、時間の経過と共に、学級の仲間に戻れないかもしれないという緊迫感を抱き始めたようでした。私は、この子が、どのような心で休日を過ごしたのか心配でした。休み明け、学級の子どもたちも解決策を考えてきたようでした。芽未先生は、子どもたちの心を揺さぶりました。正しい考えを自分たちで導き出してほしいと願っていたからです。その中で、学級の仲間たちは、当人のよいところにも目を向け、素敵なところを言い合っていました。私も当人と向かい合いましたが、助け舟を出すか、出さないかで葛藤していました。そこへ、学級の仲間の一人が、肩で息をしながら当人の前にやってきて、「嘘はだめだよ。神様が一番嫌いなことだよ。謝ったらいいよ」と告げたのです。当人は、黙って頷きました。次にやってきた子は、両方のポケットに手を突っ込んだまま、緊張した面持ちで、当人に顔を近づけて、「いいかい、間違えたことは怒っていないよ。間違えたら、すぐに謝ればいいんだよ。そして、嘘はまずいよ」と、静かに伝えたのです。その真剣さに、横にいた私は思わず、「はい」と返事をしてしまいました。当人も、黙って頷きました。最後に来た子は、当人の前に正座をして、静かに語り始めました。「みんなは、怒っていると言っているけれど、本当は、みんなの所に戻ってきて仲間になってほしいと思っているんだよ(当人、号泣する)。でも、一番悪いのは、嘘を言ったことだよ。先生をだましたことだから、その心にみんな怒っている。分かるかい? たんぽぽ組なら、ゆり組までまだ時間があるけど、俺らはゆり組だから、仲間に入るチャンスは、今しかないよ。もうゆり組が終わるから、こんなことをしていたら、仲間にならないで終わるよ。いいのかい? 一緒に行って謝ってあげるから、先生の所へ行こう。ちゃんと謝ろう。嘘がいけないんだよ。」こうして、泣いている当人と手をつないで、学級のみんなの所へ連れていき、一緒に謝ってくれたのでした。仲間たちも、そのことを真剣に受けとめました。みんな、ホッとしたようでした。その中で一番ホットしたのは当人であり、人生で大切なことを学んだことでしょう。当人だけではなく、学級全体も。
友だちの嘘をたしなめながら、どうしたらよいのか、自分事として、そのことを受けとめ、自分も嘘を言ってしまう弱さがある事に気づきながら、自分を愛するように、自分の隣人(となりびと)を愛の心で受けとめ、赦し合おうとする子どもたちの心の育ちを見ることができました。

〇 年少組の彩花先生は、子どもたちに分かりやすく「愛」を伝えていました。こひつじ幼稚
園オリジナルソング「心の花束」という歌が、つぼみ組から聞こえてきていました。日が経つ
につれ、子どもたちの歌声は、強くしっかりと歌詞を心に刻み込むように歌っているのが聞いて分かりました。歌の歌詞はこうです。
学級を覗くと、彩花先生は、マママーケットで買ったラベンダーを「あなたの愛の心」と言いながら子どもにそれぞれ一本ずつ持たせ、それを集めて束ね、花束にしていました。なんて分かりやすい伝え方でしょう。みんなの愛の心を花束にして、「そのことを忘れないで今日も生きていきましょう」と、一日が始まるのです。お弁当前、ホールに飾ってある大きな虹に向かって、身体を揺らしながら、女の子たちが「心の花束」を歌っていました。そうです、その先には虹が待っているのですね。3歳児が、仲間と生きていく素敵さに気づき始め、大切な心とはどんな心なのか、愛の心が自分の中にあるのか、見つめようとしています。大切に育てたい心です。
そのつぼみさん、米粉のパンを焼きました。仲間と魔女ごっこを楽しみ、リンゴジャムを作って、ゆりさんに火起こしをしてもらい、パンを焼いて楽しみました。彩花先生は何度も、仲間と分け合って食べていることを伝えながら、パンを配っていました。満足した後、子どもたちは、「♪ 小さな花びらみんなで分け合い~」という歌詞を思い出し、「火起こしをしてくれたゆりさんにも分けてあげるか」と思いつきましたが、全部食べてしまった後でした。
もう一つ、よく歌っている歌に「愛をください」という歌があります。彩花先生は、その後第2弾のパンを焼きました。「神様からもらった愛」で「分け合うことが大切だ」と、頭では分かっているものの、いざ出来上がったおいしそうなパンを前にすると「分けるか」「どうしようか」と頭を抱えたり、顔を手で覆ったりしながら、真剣に葛藤する子どもたちでした。彩花先生は後で私に、その葛藤シーンを、楽しそうに教えてくれました。結局、分けることにした時には、ゆりさんがこれまで自分たちにしてくれた様々な感謝を、それぞれに語りながら、パンを配るつぼみ組の魔女たちがいました。この前日、私は、好物のオレンジチョコを見つけられないように、冷蔵庫の奥のタッパーの下に隠した自分がとても小さく見えました。

〇 海賊(年長)×森の戦士(年中)×魔女(年少) それぞれの基地が園庭にあり、ずっと楽しんできた遊びです。時には昼下がり、戦いが勃発し、先生方も夢中になって園庭中を駆け
回るようなことが起こります。ご存知の通り、木には事欠きません。木で作ったパチンコは強力な武器です。パチンコから、チラシで作った球が飛び交います。手作りの携帯電話で、仲間と交信もしています。海賊船の舵が激しく回ります。魔女の魔法のスティックは、何とも怪しい動きです。
そんなある日、園庭は、いつにもなく大騒ぎでした。森の戦士には合言葉があります。その合言葉でたんぽぽ組の仲間たちは、基地に入ることで、仲間を満喫してきました。しかし、一人の勝手な気持ちから、秘密にしていた合言葉がばれてしまったのです。あっという間に全園児の知るところとなり、森の戦士の家は、海賊と魔女に乗っ取られてしまいました。やんちゃな彩花先生が率いる魔女軍団と、満面の笑顔でからかう海賊たちとが、森の戦士の家ではしゃいでいました。遠巻きに肩を落とし、無言で立ちすくむ戦士たち37名。「どうしたらいいの」「なんで、合言葉を言っちゃったのさ」と悔しがったり、泣き叫ぶ戦士までいたり、言ってしまった友だちを責めたりで大変でした。翌日、取り戻すための秘密の話を聞き、仲間と新しい合言葉を決め、それを100回唱える方法を知り、希望の光が見えて、学級がぐんとまとまっていきました。さて、新しい合言葉を決め、みんなで森の戦士の家に行ってみたものの、2チームに占領されたままでした。手も足も出ないと思った時、空っぽの魔女の家ではわくわく組の子どもたちとまり子先生が、焼肉パーティーをしていました。まり子先生が「魔女のお家もらったぞー」と叫ぶと、魔女たちが戦士の家から慌てて出てきて、怒り出しました。それでもまり子先生は、枝のお箸でゆっくり葉っぱをひっくり返しながら、「焼肉は美味しいねー」と聞き流しました。その時、森の戦士の家ではしゃぎ呆けている海賊たちを見た魔女たちは、一斉に走り出し、海賊船を乗っ取ってしました。あっという間の出来事でした。やんちゃな魔女っ子彩花先生は、海賊たちの攻撃にびくともしません。海賊たちは、居場所がなくなり、とうとう園庭に横たわっている白樺の木にまたがって、大泣きしてしまいました。「返してー。」「僕たちの海賊船だぞー。」舞衣先生も芽未先生も、白樺に抱きついて悔しがっていました。そんなドラマをよそに、空っぽになった森の戦士の家にやっと戻ることができた37名の戦士たちが、100回合い言葉を唱え始め、海賊と魔女の戦いをよそに、自分たちに戻った平和な家で、ポップコーンを食べたり、すぐ隣に実っているブドウを食べたりして、パーティーを楽しもうとしていました。
秘密の約束を破ると大変なことになるということや、大切な場所をとられる気持ちを、それぞれの学級が味わい、平和を知ったり、笑ったり、怒ったり、泣いたり、大声で叫んだり、また、学級で楽しんできた遊びが園全体の遊びとして楽しめることまで経験しました。互いを認め合いながら楽しめるこの光景を、私はまぶしい気持ちで見守っていました。
幼稚園の園庭が、運動会より激しい子どもたちの動きの渦の中、その園庭で、私は、入園願書を求める方々の対応をしていました。ある方は、「今日は何かある日ですか?」と尋ね、ある方は、「みんなで遊ぶ日ですか?」と問い、ある方は、「縦割り保育ですか?」と言い、またある方は、「楽しそう、ここに入園できるのですね。ワクワクする。みんなキラキラしてる」と述べてお帰りになりました。私たちは「いつでも笑顔を」「あふれる感謝を」「素直な心を」「いつでも自由を」「変わらぬ友情を」「許せる心を」を感じて過ごしているのです、と説明したくなりました。

〇 マママーケットの計画が全て終わりました。思いにふけりながら、2人の子どもたちと3人で白樺の木に腰かけていました。「マママーケット、またしてほしいね」と、一人の子が言いました。「あれは僕たちを喜ばせるためのお母さんたちの愛だったんだよ」と、隣の子が空を見ながらつぶやきました。私は、心の中で、「ドラマみたい」と思いながら「愛って、空みたいにきれいだよね」と続けましたら、二人から、「えー、愛って見えないんだよ。だから大事なんだよ」と突っ込まれてしまいました。みんな自分の心を見つめられるように育ってきたのだと感じました。

〇 散歩に行った先で、木の実がなっている家がありました。みんなで眺めていると、その家のおばあちゃんが出てきてくださり、「実を食べてもいいですよ」と言ってくださいました。遠慮なくいただきました。いつもの散歩がより楽しく、思い出深い散歩になりました。また翌日散歩に行き、立ち寄ってみましたら、おばあちゃんが、おやつをくださいました。思いがけない出会いと、思いがけないやさしさに触れることができました。そして、その次の日、今度は、子どもたちが幼稚園に実ったブドウと頂いたカボチャとジャガイモを持って、お礼の気持ちをお届けしました。午後、幼稚園で遊んでいると、おばあちゃんが訪ねてきてくださり、子どもたちは大歓迎しました。お土産をくださり、またまた感激しました。そして、おばあちゃんの息子さんが、昔こひつじ幼稚園の子どもだったことを知り、みんなでびっくりしました。年少組のパンを焼くために火起こしをした経験から、「見返りを求めないことが本当の愛だ」と気づいた年長組の子どもたちは、「おばあちゃんは、愛の人だね」と、思い出したように言いました。

〇 礼拝の後、ふと思っていることを言いにくる子がいます。私が遊んでいる時に、礼拝のお話を思い出して、自分の思いと重ねて話す子がいます。今回もそうでした。「先生、私ケンカは愛がないことだと思う。意地悪は、愛し合えないことだと思う」と言い終わったとたん、唇を堅く結んで、私の顔を見ていました。「先生もそう思う」と言うと、ほっとした顔をして、「お父さんに教えてあげる」と言って、いなくなりました。私は、「お父さん、子どもの前で、お母さんを大事にしてね」と心の中で叫びました。
〇 冬が近づいてきたので、園庭の白樺の森を片付けるということを伝えました。ある日、子どもが楽しませてくれた白樺に話しかけていました。「白樺さん、ありがとう。とっても楽しかったよ。もう切られちゃうんだね。栄先生が切るから」と。しっかり伝える感謝もありますが、「感謝」を伝えたくなる気持ちを大事にしたいと思いました。私も白樺にそっと伝えてみました。

〇 つぼみ組のはるとくんの描いた「ひまわり」をみんなで観ていました。大きなひまわりの絵です。「このひまわりのように、はるとくんも大きくなったね。どの辺が大きくなったと思う?」と投げかけると、年中組の子は、「足がまっすぐになったね」「手がピットして、大きくなった」と言いました。年長組の子の中には、「心が大きくなったよ」と言った子がいました。人の心を見ようとする目が養われてきているんだと思いました。心は形がありません。でも、見ようとする人には、見えるものなんだ、と子どもが教えてくれています。

〇 わくわく組の「運動遊びの会」を開催しました。すばらしい天気の日となりました。ゆり組の子どもたちは、海賊船から大応援です。手伝いたくて、お尻がムズムズしているのが分かりました。たんぽぽ組の子どもたちは、前日、まり子先生にお手伝いを頼まれていましたから、張り切って準備をし、一生懸命働きました。マイペースで動くわくわく組子どもたちの手をつないで、運動遊びに参加できるよう、助けていました。係なんて決めなくたって、自分の考えでお手伝いができます。親子でする種目を見て、「かわいいね」「泣いても仕方ないよね。ベイビーだもん」と、少し上から目線の会話も聞こえてきました。7つほどの種目を終えた時、みんなで大きな拍手で喜び合いました。保護者の方からも、楽しかった感謝の言葉を聞きました。園庭に優しい空気が流れました。その後学級で、優先生は「大きな愛の心で手伝えたんだね」と、子どもたちと振り返っていました。喜んでわくわくさんのためにお仕事ができたこと、わくわく組のみんなやお母さんたちに自分たちの手伝いを喜んでもらえたことの意味を心に刻めた経験だったことでしょう。

子どもたちの日々のエピソードを記録していくと、一日分だけでも、分厚い一冊の本になることでしょう。長くなりましたが、幼児期を過ごす子どもたちの日々は、評価されることではない、ランクをつけられることではない、やらされることではない、比べられることではないのです。自分が、思っていること、感じていることを表現してみて、友だちと響き合わせてみて、友だちの素敵さを素直に感じてみて、時には失敗してみて、自分の在りようを見つめ、人と繋がり合うことのすばらしさを実感していくことを繰り返し経験することです。そして、「愛」を知ることによって、自分を生かして生きるということを学んでいくことなのです。
11月も、豊かな生活を展開していくことでしょう。

*11月の予定*
2日 2021年度入園受付
4日 なにぬねのの日
5日 誕生会
11日 身体測定
24日 なにぬねのの日
25日 わたしたちのすきなこと 1日目
26日 わたしたちのすきなこと 2日目
27日 わたしたちのすきなこと 3日目
30日 アドベント第1週