「これでいいのだ」(NO.8)

職員室にいると、登園して身支度を終え、学級に集まった子どもたちの歌が聞こえてきます。私は、子どもたちが遊び出す前に、期限の迫った山盛りの苦手な事務仕事を終わらせようとハッチャキになります。気がめいりそうになったことが何度もありますが、子どもの歌声に救われたことはそれ以上です。「運動遊びの会」で子供たちが歌ったこの歌にもずっと励まされてきました。

『ともに生きよう』
今、君が笑う それだけでこの闇が解けていく
明日が拓ける 勇気が湧いてくる  でも会えない 手も握れない
それぞれの長いトンネル いつまで続くのだろう
時に土砂降りの雨に打たれても それでもみんなで歩いてきた
信じる未来照らして
超えてゆけ! 超えてゆけ!  超えてゆけ! 超えてゆけ!
新しい扉開けた未来を  ともに生きよう!

コロナ禍で世界中が苦しかった時期、TEAM NACSのリーダー森崎博之さんが作詞作曲した歌を子どもたちは「それでも負けないで、一緒に生きよう」と、大切に歌い続けてきた歌でした。
あの頃の私は、前園長が亡くなり、大変なショックの中、私の母も同時期に亡くなり、コロナ感染が世界中、日本中に広がり、こひつじ幼稚園は臨時休園に追い込まれ、子どもたちにも職員同士も会えず、見通しがもてず、保護者からの不安な声と励ましが交錯し、本当に暗い苦しい時期でした。
私は子どもの頃から、「命のこと」「生きるということ」の出来事に、素敵な時は、見たことのないお花を探して「ありがとう」と言いたくなり、ショックな出来事の時は、ブラックナマズデビルが背後にいる気がしていました。ブラックナマズデビルといっても、アンパンマンに出てくる、バイキンマンみたいなかわいいのとは違います。
例えば、かわいいミミズちゃんをポケットに入れて可愛がり過ぎて死んじゃった時は、「そんなところに入れておかないで」とか「何度も同じことをしているよ」と母に言われると、「何故、ミミズが死んだことを悲しがらずに怒るのさ」と思い、私の背後にブラックナマズデビルが現れるのでした。ですから、この苦しい時期もずっとブラックナマズデビルが登場していたのです。なかなか消えませんでした。
ブラックナマズデビルには、いきさつがあります。思い出すのもおぞましい。(前に園だよりに書いていたらごめんなさい)
私が小学3年生の頃、学校の隣にあった神社のお祭りで、兄のこづかいを握りしめて、ひよこを飼いました。家の庭に使っていなかった屋根のある大きな犬小屋があり、その小屋で飼うことにしました。そこに時々、泊まらせてもらいました。2ヶ月もたたないうちに、立派なニワトリに成長しました。名前も「ひよこちゃん」から「ニワトリちゃん」に改名です。可愛がったほどニワトリちゃんとはコミュニケーションがもてず、ずっと身近にいた犬とはずいぶん違う生き物なのだと知りました。家族からは、大ブーイングでした。「こんな朝早く起こされるのは迷惑だ」と言われていました。ニワトリちゃんの「コケコッコー」は半端な声ではありません。2、3日遊ぶのが忙しく、ニワトリちゃんの世話を怠っていたそんなある日、学校から帰ったらニワトリちゃんがいません。私は、すぐに兄に聞きました。「知らないよ。でも、元々は僕のお小遣いで買ったよね」いつからばれていたのかと思ったのは少しだけで、とにかくニワトリちゃんの行方で心はいっぱいでした。母は、「おばちゃんが、欲しいって言うからあげたの。あそこなら、ニワトリが鳴いても大丈夫だもの。あなたが会いに行けばいいことよ」とケロッとした顔で言いました。その話が終わらないうちに私は、神社の向こうのおばちゃんの家まで走っていました。ちょっとだけ、なんで自転車に乗ってこなかったんだろうと思いながら。
おばちゃんの家は、広い原っぱに建つ大豪邸で、ベランダの脇にはプールがあり、そこにナマズが泳いでいたのです。おばちゃんがニコニコしてお庭に出てきて言いました。「栄ちゃん、ニワトリをありがとう。おいしかったわ」と言いました。「・・・」私は、じっとおばちゃんを睨んでいました。ピカピカにテカったほっぺ。大きな口の白い歯。赤いマニキュア。この人の本当の正体は、「ブラックナマズデビル」だと思いました。
帰りは、どうやって帰ったのか記憶もありません。真っ暗になって家に着くと、母が外で心配していました。「心配するくらいならニワトリちゃんをあげないでよ」と思いました。泣きながら、おばちゃんがニワトリちゃんを食べちゃったことを話すと、母は、でっかい眼を血走らせ、父も兄もびっくりした顔で、誰ひとり話をせず寝床に入りました。私は、お葬式みたいだと思いました。こんな年になっても、「ブラックナマズデビル」が現れるのですから、とてもショックなことだったのだと思います。それ以来、様々な窮地に立たされるたびに、このブラックナマズデビルが私の背後にこれまでも、今でも登場してくるのです。
次の日に学校で、この出来事を友だちにもっと恐ろしく生々しく色をつけて話すと、みんなはブラックナマズデビルに会いに行くと言っていましたが、私は二度と会うことはありませんでした。以来、この経験から、私は命についてよく考えるようになりました。
私がコロナ禍でブラックナマズデビルに襲われている頃、めいみ先生からお知らせがありました。それは、お腹に赤ちゃんが宿ったというお知らせでした。本当に嬉しくて、なぜか私のお腹が痛くなったほどでした。今、咲いているどの花にも「ありがとう」と言いたい気持ちでした。お腹が目立ち始めた10月からほとんど毎週、全園児がホールに集まり、お腹の赤ちゃんの話を聞きました。めいみ先生の気持ちや体調、命の話、お腹の大きさを計ったり、触らせてもらったり、お腹の赤ちゃんに歌を歌ってあげたり、お祈りしたり、性別を予想し合ったりしています。こひつじ幼稚園では、たくさんの命に出会い、喜びや悲しみを分かち合う経験を大切にしたいと思っています。めいみ先生のお腹の赤ちゃんから、イエス様のお誕生を重ねつつ、クリスマス会の活動へ向かいます。
今年も、まりこ先生が素晴らしい歌を作曲して下さいました。

『これでいいんだ』
心の翼広げよう どんどん広げよう 心の翼広げよう 力強く 心強く
生きていくんだ これでいいんだ
いつだって はじめの一歩がある いつだって いつだって チャレンジはある
自分の力信じて 神様がくれた明日を生きよう
心の翼広げよう どんどん広げよう 心の翼広げよう力強く 心強く 
生きていくんだ これでいいんだ

いつだって 楽しみを見つけられる いつだって いつだって チャレンジはある
自分の力信じて 神様がくれた明日を生きよう
心の翼広げよう どんどん広げよう 力強く 心強く 生きていくんだ これでいいんだ
WOW WOW WOW WOW 愛はどこにもいかない 
WOW WOW WOW WOW愛はここにある 
心の翼広げよう どんどん広げよう 心の翼広げよう 力強く 心強く
生きていくんだ これでいいんだ これでいいんだ

「わたしたちの好きなこと」で、うたった歌です。是非、お子さんに歌ってもらってください。我が子が力強く、心強く生きていることを確認してください。失敗しても挫けそうになっても明日の自分を信じて生きようとしている我が子は、とても美しいです。
今朝の事務仕事は、このうたを歌っている子どもたちの声に励まされました。さて、今年もあと少しで終わります。どうか、ブラックナマズデビルに会いませんように。

*12月の予定*
1日 アドベント2週・パパパドッヂボール
6日 誕生会
7日 アドベント3週
9日 わくわく広場、わくわく組学級懇談会
15日 クリスマス会
24日 終業式
27日~1月19日 冬休み
1月20日 始業式